馬籠宿から妻籠宿まで 2017年9月10日 ８時２０分過ぎに宿を出る。藤村記念館、老舗大国屋、観光案内所、脇本陣資料館などの間を坂道が続く。登りきった陣馬には高札場が復元されその前に恵那山を始め大自然を一望できる見晴らし台が設けられている。残念ながら、早朝はくっきり見えた恵那山はすでに雲に覆われている 木曾路の中でも馬籠、妻籠は海外にもよく知られているらしい。民宿でも大勢の海外からの宿泊客と出会った。そしてこの日はオーストラリアから来たという女性と道連れとなった。 〜街道歩き開始（８時３０分）〜 階段やせまい山道をゆくと道標があり傍らにクマ避けのための鐘が吊るされている。地元の配慮だろうか。数年前に徳沢で買った大きめの鈴はつけてきたのだが、大きな音が響く鐘はありがたい。 木橋のかかった土道を進み県道を横断すると石置き屋根の水車小屋が見える。水車塚といい、この場所で明治３７年の土石流で島崎藤村と親交のあった蜂屋家の４人が犠牲になったといった解説があった。橋の下を流れるのは塩沢川か・・・ 石畳道が始まる。ここにもクマ避けの鐘が・・・心づよい 十辺舎一九の碑　「渋皮のむけし女は見えねども栗のこわめし、ここの名物」 旧峠村 民間の荷を運ぶ牛方の集落で,十辺舎一九にも歌われた名物の「栗こわめし」を商う茶店などがあったという。沿道に牛方組頭今井仁兵衛住宅跡や、旧旅篭桔梗屋の建物が残っている。 〜馬籠峠〜 熊野神社を右に見て更に登ると馬籠峠８０１ｍに到着。（９時２０分） きつい登りかと思っていたが意外と簡単に着いた気がする。残念ながら展望は効かない。 後方にみえる道標に従って、下っていく。５００ｍほど行くと一石栃立場茶屋に着く。現存のこの立場茶屋は牧野家が営む江戸時代後期の建物だとか。無料休憩所になっている。 すぐ隣に一石栃白木改番所跡があった。 ここで木曽五木（ヒノキ、サワラ、アスナロ、ネズコ、コウヤマキ）をはじめとする伐採禁止木の出荷統制がおこなわれた。木曽谷の人々は古くから尾張藩の厳しい山林規制に苦しめられ、明治になっても木曽谷のほとんどが官有林となり更に過酷なものとなったようだ。 サワラの大木のある林道を下っていくと県道７号を挟んで石畳道は土道へ。 土道に沿って沢（一石沢）が流れている。やかて木製橋で一石沢を渡り県道と合流。 舗装道をそのまま進むと男滝、女滝に達するようだが、斜め右の土道に入る。やがて両道は合流し旧下り谷村へ向かう。 土手の上に黒く塗られた祠がある。倉科祖霊社は天正１４年、松本城主より秀吉への関白就任祝いの品を託された重臣、倉科七郎左衛門と従者３０名が地元の土豪に襲われ全滅した。その供養の社だという。 つづら折りの石畳道を下っていく。美しい木曽路を代表する道だ。 途中に牛頭観音が祀られている。掲示板によると石の多い道の荷運びにつかわれた黒牛を供養するためとのこと。中山道で唯一の牛供養の石仏とのことだった。（多くは馬頭観音) 車道に出ると、軒下に山駕篭を吊るした古民家の前で、女主人に出会う。 「民宿こうじんづか」とのこと。 道が左折する角に、「庚申塚」とも呼ばれる大妻籠の一里塚がある。日本橋から８１里目だそうだ。行く手に数軒の民宿が並ぶ。大妻籠旧旅籠群だ。 〜妻籠到着〜 大妻籠を通りすぎ、蘭川を渡ったところにあるという石柱道標を「妻籠の橋場は追分とも呼ばれ中山道と飯田街道の分岐として栄えた〜〜」と書かれた掲示板で確認。 あたりの地名ろ橋場という。 その先で小さな「走しば邑道標」にしたがって左折する。これが中山道？と思えるほど細い道で見落としそうだ。駐車場の脇をまわりこむと妻籠宿町並み入口に達する。（１０時５５分） ]町並みへの道で先ず印象に残ったのは大きな藁馬。藁馬を作る工房らしい。「いんきよ」という屋号がかけられていた。伝統工芸なのだろうか。飼葉桶まであるところがユーモラス 左に発電所を確認しながら進むとやはり、宿場内は観光客でにぎわっている。遠くに目をやると町の向こうに伊勢岳とその手前にかつて妻籠城があったという山が望める。 伊勢岳というのが不思議な感じだったが、この山で切り出した檜が伊勢神宮へと運ばれたと聞いて納得。 宿場の全長は８００ｍ。進むにつれ出梁造りの二階家に千本格子の町並みが続いている。 下諏訪屋あたりは枡形になっていて、その建物の風情は江戸時代さながら。建ち並ぶ店は、草木染め,編みがさ造りの実演、指物の店、五平餅の店・・・店のにぎわいに目を奪われ、人の多さもあって街道の家並を写すどころではない・・・。 人だかりがしている。宿案内人が団体客への解説を始めたところだ。 妻籠本陣は代々島崎家が勤め問屋を兼ねていたという。上段の間を持つ豪壮な建物で、屋根に目を向けると本陣もまた石置き屋根だ。 時間は１１時を回った。馬籠を出て３時間、無性にコーヒーが飲みたくなった。 本陣の斜め向かいでコーヒーと五平餅を買い、ふれあい館でしばし休憩。いいお天気過ぎて日陰に入りたくなるほど日差しがきつい。ちょっと汗も入ったので更に街道を奥へ。 木曽塗りの店で菓子楊枝を、櫛を売る店で以前から探していたお六櫛を購入。 12：00　蕎麦で軽く昼食を済ませて、脇本陣へ。 奥谷脇本陣 代々、脇本陣と問屋を勤めたのは林家（屋号は奥谷）で現在の建物は明治1０年のもの。豪壮な総檜造り。案内によると造り酒屋も営んでいたようで、藤村の初恋の人といわれている馬籠の大黒屋の娘、おふゆが１４歳で嫁いだ家でもある。 囲炉裏のおかれた部屋など、当時の生活がうかがわれる。格子から差し込む光が美しく、圧倒された。この光がまっすぐに落ち、美しい光の線がくっきりしてくると冬の到来を感じるという話だった この部屋のほか、炉が切られた部屋と上段の間が公開されていた。上段の間は宝づくしを彫った欄間や黒柿の長押をつかった瀟洒な部屋だった。 その後、隣接の資料館で、南木曽の歴史、町並み保存運動の資料、木曽五木などの詳しい展示を見て回る。 天然記念物のギンモクセイの大木や、光徳寺などにも立ちよった後、宿の江戸側枡形付近の高札場へ。高札場向かいには口留番所跡の碑が建っていた。宿場の守りの堅さを思わせる 街道は南木曽駅から三留野宿へと続く。まだ時間に多少の余裕はあったが、「のんびりいこう」と決め込んだ今回の旅、近くにあった甘味どころ、ゑびやでコーヒーをいただきこの日の旅を終えた 英泉による馬籠峠と広重による妻籠城あたりの峠 おことわり：浮世絵画像は合同出版「木曽街道六十九次」より。