10月１5日 垂井〜赤坂〜美江寺 （垂井宿〜赤坂宿） 駅に着いたのは９時少し前、この日は前日の東見付を出発点として美江寺宿までの約１５キロを歩く。 先ずは午前中に赤坂宿へ 当時は人足渡しの川だったという相川を渡る。秋の空はどこまでも青く、相川橋からは伊吹山がくっきりと遠望できた。快適な歩きができそうだ。 追分橋で梅谷川を渡ると道は別れ、右は東海道の宮宿に通じる美濃路。中山道は左へ。 所々、畑地もある街道を青野ヶ原へと向かう。かつての農村地帯だろうか食物神、農業神の稲荷神社が目につく。蓮華畑もあるらしく養蜜場の看板も見られる。 ２キロほど進むと、常夜灯を背景にした青野ヶ原一里塚 街道右手に鐘楼の石垣にフズリナの化石が露出しているという教覚寺に立ち寄る。フズリナは古生代に全盛期を迎えた有孔虫で石灰岩の中に多く存在するらしいが、さてどれだろうと石垣とにらめっこしたが、円形のシミの様なものがそうなんだろうか？結局判然とはせず・・・。いずれにしろ切り出された石を使ってるというだけのことかもしれない 先に進む。 青墓宿！なんだか気味悪い地名だが、このあたりには古墳が多く、大きな古墳、大墓が転じて青墓となったらしい。この地は鎌倉時代、東山道の宿駅として大いに栄え[遊女の里]としてにぎわったらしい。それを物語る逸話ものこっていて・・・ 照手姫水汲み井戸 照手姫とは、相模の郡代の娘だったが美人とのうわさを聞いた常陸の国司、小栗判官が強引に婿入りし、それをよしとしない父親に殺され、嘆いた娘は旅に出てしまうが、その果てに遊女に売られるという説経節の代表作の登場人物。 水汲み井戸の伝承として青墓長者に売られた照手姫が客取りを拒否、籠で井戸水を汲めといういじめに遭ったといった言い伝えが記されていた。 芦竹庵（旧圓願寺境内） 旧圓願寺は鞍馬から奥州に向かう義経が源氏再興を祈願した寺で、杖代わりにしていた芦を地面に突き刺すと芦竹となったという伝承がある。 粉糠山古墳・・・街道を少し左に入ると丘の上に沢山のお墓がならんでいる。丘は古墳の形に見えるのだが、上に墓をつくるものだろうかと怪訝に思い近所の人に聞いてみると、やはりそうだという。ただ古墳かどうかはよくわからないのだとか。粉糠山の由来についても話してくれた。昔の旅人は石鹸代わりに糠を使ったが、そのカスを積み上げたものだとか、遊女の化粧に使った粉が積もって塚になったとかいろんな言い伝えがあるらしい。 昼飯町 少し行くと如来寺があり、その辺りを昼飯という。この変わった地名の由来を解説した看板も立っている。難波湊で拾いあげた善光寺如来を運ぶ一行がこの地で昼飯をとったというような伝説があるらしい。なんとも長閑な話だ。 昼飯と聞いて、ではと、時間は少し早かったが街道傍の公園のあずま屋でお弁当とする。 しばらく行くと道左手に旧民家（早川邸）を活用した岐阜大学セミナーハウスがあった。入ってみると、少し先の昼飯大塚古墳の出土品(玉や円形埴輪など）の一部が展示されていて、詳しくお話をしてくださる。地元民を対象に時々セミナーを開くのだとか。 昼飯大塚古墳 全長１５０メートルの巨大前方後円墳。１６００年前のもので岐阜県最大だという。特徴は構造が三段築成となる点、後円部頂上に竪穴式石室、粘土槨、木棺直葬という三つの埋葬形態が存在する点にあるのだとか。先のセミナーハウスでのお話によるとほぼ完全な形で残っていたのだとか、ただ、被葬者がだれであるのかは特定されていないらしい。保存に力が入れられていて、現況の墳丘を修復、、後円部に復元ゾーンを設け,葺石や埴輪、周壕が復元されている。墳墓の上からの眺めがよく遠く伊吹山まで見渡せる。 緑の丘では蝶が飛び交っている。 赤坂宿の西見付 古墳から５００mほど行ったところが赤坂宿の西見付（京口）で関ヶ原合戦、前哨戦で戦死した一色頼母の兜塚がある。 更に、左手に幕末の医学志士、所郁太郎生誕地の碑などが建ち、街道沿いの屋並みにも往時の宿場の雰囲気が感じられるようになってくる。街道右に少し入ると、将軍専用の宿舎、お茶屋屋敷跡のボタン園があるらしいが、ボタンも今はなかろうと寄ってみなかった。 ・・・屋敷跡だけでも見ればよかったと後で後悔。 宿駅五七処・・・日本橋から数え５７番目の宿に由来する、 脇本陣跡 飯沼家が勤め、問屋、年寄役を兼ねていた、現在は榎屋旅館となっている。 なんと豪壮なんだろうと感心。本陣を勤めた矢橋家は天保４年(1833)築の大型町家で国の有形文化財となっている。周辺には古い屋並みが続き宿の雰囲気がたっぷり味わえる。 また、ここは宿の中心であり中山道と谷汲街道が分枝する十字路で、北へ向かうと西国三十三観音の谷汲山華厳寺へ。南に向かうと伊勢へと通じていた。 本陣跡 公園になっていて、左奥に小さく見える銅像は所郁太郎。そして本陣石碑の右には大きな岩に和の宮と刻まれ、更に碑文が刻まれていた。赤坂宿は和の宮降嫁の際にその本陣に泊ったことで知られ碑文には「惜しまじな君と民との為ならば身は武蔵野の露と消ゆとも　」と、家茂の死後に悲涙に咽ばせられながら詠まれた歌「空蝉の唐織ごろもなにかせむ綾も錦も君ありてこそ」など和の宮の足跡が刻まれていた。　 赤坂湊跡 旧、杭瀬川は今は小さな用水路の様な流れだが江戸時代には流れも大きく河川交通の要衝だったという。宿の背後、金生山で採れる石灰岩や大理石の搬出、また,諸藩の廻米が集積され、300もの舟がもやっていたという。今は湊跡に常夜灯(画像左隅）が残り一帯は公園となっている。この日も何かイベントがあるらしく大勢の人が集まっていた。残念だったのは洋館の湊会館が修復中だったこと。 大きな火の見やぐらは赤坂宿を代表するモニュメント。 水路を超えると御使者場跡の標石があり、そこが赤坂宿の東見付(江戸口） 時間はちょうど12時。見どころの多かった垂井〜赤坂に時間をかけたが、 午後は次の宿、美江寺へ向かう。 ★赤坂宿から美江寺宿 杭瀬川をこえるところから午後の歩きは始まった。 広重の木曾路版画には桜並木と土橋を旅人が渡るようすが描かれている。 赤坂大橋を渡ると美濃路追分で、大垣への道が右に分かれている。左手土手に立て札がある。行ってみると、わが国最大のゲンジボタルが生息しているとある。大垣市の天然記念物ということだ。 ５００mほど先に「史跡中山道一里塚跡]と彫られた標石がある。池尻の一里塚だ。単調な道をひたすら歩く。空き地に咲く鮮やかな百日草やそこにやってくる蝶が単調さを慰めてくれる。 東赤坂駅近くの養老線を超えるとやがて何度も角を曲りながら進むようになる。｢中山道七曲がり半｣というらしく、路傍にその標識もある。京に向かって、ここから七曲がりがあることを告げる標識の様だ。 道がようやくまっすぐになった頃、左手に聖観音菩薩像が立っている。ここからも北に向かって谷汲山道が伸びているのだ。約４里あるらしい。中山道はまっすぐ前進。(画像では右へ） なおも単調な道を進む。川岸に桜並木のある細い川、東の川を渡り道なりに進む。 突き当たりで右折すると平野井川の土手道に差し掛かる。その辺りは大垣輪中とよばれる堤で河川の氾濫から守られている。 墨俣追分道標 堤防上を進むと土手の草むら、見上げる位置に道標が立っている。[左木曽路、右すのまた宿道」とある。先のY字路を左にとる 新橋で川を渡る、土手に座って少し休憩。 小簾紅園 モミジが美しい小さな園地が和の宮の遺徳をしのんで呂久渡船場跡に造られている。 今は豊後川とよばれる旧呂久川（旧揖斐川）に当時の渡しがあり、和の宮も御座船で渡ったという。その際、対岸の馬淵家の庭の紅葉を愛で、一枝所望して、[落ちてゆく身と知りながらもみじ葉の人なつかしくこがれこそすれ]と詠われた。とあり、園内には和の宮の歌碑が建立されている。落ちていく身・・・・という言葉に当時の宮の思いが切々と伝わってくる。 揖斐川(大正１４年の河川改修で変更された） 揖斐川は冠山に源を発し伊勢湾へと注ぎこむ。往時は呂久川と言われた。遠くに連なるどの山が源なんだろうと思いながら鷺田橋から上流を見る。 揖斐川を渡ると、いよいよ美江寺へと田園道を横切って進むことになる。今はだだっ広いだけの道だが、往時は江戸時代初期に植栽されたという松並木があったという。道は間違ってないだろうかと少し不安になる頃、美江寺宿と記された電柱標識を確認、さらに、道の解説版にも出会えた。 マンホールのふたデザインも変わり、巣南中学校も街道右に 川沿いを行くとやがて、自然居士作の阿弥陀如来像千体が安置されているという千躰寺の前に立つ。小さな寺だったが中には入れなかった 美江寺の街道筋。石組と緑の美しい生垣が目をひく。 犀川 河岸周辺には柿が沢山植えられている。水面が岸に迫るほどの豊かな水量だが、昔はよく氾濫したというのがわかるような川の様子だ。 広重の描いた犀川も傍らに赤いツバキが咲き、農民も描かれ当時の美江寺がうかがえるが、岸辺の様子などそう変わらない風景だ。 野に立つ千手観音堂には祠の中いっぱいに大きな千手観音が祀られている。美江寺という地名のきっかけとなった千手観音への信仰が厚いのだろう。 墨俣道道標があり右へ進むと墨俣一夜城への道。中山道は左(北方向）へ進む。 美江寺本陣跡 ひっそりした雰囲気は今も当時も変わらないらしい。 宿は１６３７年に江戸から５６番目の宿として開設されたが、本陣1、脇本陣なし、旅篭11という小さな存在だったようだ。本陣の建物は濃尾地震で倒壊。後、建て替えられたがそれも平成になって取り壊され、今は旧本陣の面影はない。 道はやがて東へ延びる美江寺観世音道に突き当たる。正面に美江神社。 左角の虫籠窓のある民家は庄屋和田家。(旧美江寺城主和田氏末裔） 建て替えられたのか改修されてのか美しい外観を保っている。 美江神社 この神社の裏あたり観音堂があった。河川の氾濫に悩まされたが十一面観音に祈願すると[美しい江]となったというのが地名の由来。その観音は寺が火災で焼失した際に斎藤道三によって岐阜に移され、その後、美江寺は廃寺となったとか。 今は別の観音が祀られているそうだ。 境内には宿の碑が立ち、高札場が復元されている。 中山道は神社前の道を東へと進む。 造り酒屋布屋 元禄９年(１６９６年）創業）。濃尾地震(１８９１年）で唯一残った商家で今も営業している。 神社から５００m行くと樽見鉄道の美江寺踏切があり、このあたりが宿の江戸(東)口。 すぐそばの美江寺駅に着いたのが、１５時４０分。この日はこれで切り上げ、宿のある岐阜へ向かった。 広重の赤坂と美江寺 赤坂に描かれているのは杭瀬川と土橋を渡る旅人・美江寺の犀川河岸には百姓の姿が見える。 おことわり：浮世絵画像は合同出版「木曽街道六十九次」より。