野尻宿から須原宿 ２０１８年５月１０日 野尻（大桑）から須原宿へ 野尻宿まで進んでいた中山道木曽路の続きを須原へと進めるべく、大桑駅で下車したのは１２時３４分。須原までは４．５キロの距離。午後からとはいえ少し物足りない距離だが、次の駅までは長すぎ、途中には宿もないので須原で終了とせざるを得ない。立ち寄りを含めてゆっくり歩いても 須原発１５時０４分に間に合う。ちなみに次の下り列車は１７時４９分という少なさなのだ。 一か月前の大桑駅前には桜が満開だったがすっかり新緑に変わっていた。 先に来た時には霞んでいて見えなかった木曽駒ケ岳が白く輝いて見えた。 木曽川へと流れ込む上田沢を渡り、平沢集落の坂道を登っていくと右手に禅寺、天長院がある。門前のマリア地蔵ほか境内には沢山の石仏が祀られていた。 その先、のどかな田園の道をゆったりと進む。小さな水舟のある角を右へ曲り、中央アルプスを遠望しながら下っていく。 中北道標から先は伊奈川沿いを歩く。激しい流れを表現した英泉の[伊奈川橋遠景]はこのあたりを川から見上げるように描いたものであろうと思われる。 手前の橋が伊奈川橋で、上流に伊奈狭がある。左の集落が橋の築造保守を行う職人がすんでいたという旧橋場村。山腹にあるのが崖屋造りの岩出観音堂で早速登ってみた。 高い櫓の上に建つこのお堂に祀られているのは馬頭観音。境内の解説によると、三百余年前、依頼された馬の沓を作って当地まで届けた礼にと馬上の侍から与えられた｢馬頭観世音」と記した木片をその沓作りの老人が岩出山の岩間に祀ったのが起源らしい。堂の背後には岩壁が立ちはだかっていた。 水場を右に見て先へ進むと木曽川の景観が眼下に広がる。その辺りから長坂とよばれる下りに差し掛かるが前方にはまた美しい木曽駒が見えている。お天気に恵まれ快適に歩く。 （14：00） １５分も下っただろうか。須原宿に着く。 やがて道は枡形となり、右へ曲る鍵屋の坂とよばれる石段を登っていく。振り返ると、結構急だ。真中に用水があり両側に道というのは江戸時代宿場の原型だとか。 石段を登りきるとまっすぐな町並みに出会う。鉄砲町というようで、その筒先に、名刹、定勝寺が緑に覆われるように佇む。 この寺は永和年間(１４３０)の創建で木曽福島にある興善寺、長福寺と並び、木曽三大寺と言われている。木曽川の氾濫で三度も流されたようだが、再興され、その本堂、山門、庫裏ともに国の重要文化財となっているということだ。 桧皮葺の山門をくぐり境内へ。 立派な建物と鶴亀の庭の美しさに見惚れる。 いよいよ、宿に入る。とっつきは旧旅篭の柏屋で御嶽講といった看板も見られた。 なるほど、まっすぐな道が続いている。当初、川寄りにあったという宿は木曽川の氾濫にみまわれ一段高い現在の場所に移されたという（1717）。水に恵まれた宿内にはサワラの丸太をくりぬいた水舟が随所に置かれ｢水舟の里｣とも言われるらしい。 やがてゆるやかに左へとカーブするあたりが宿の中心だろうか。藤村の「ある女の生涯」の舞台となった清水医院跡の横に須原の民搖「須原ばねそ」の案内があったり、子規の歌碑、西尾脇本陣跡、木村本陣跡と続く。１８４３年の宿村大概帳によると当時の家数は１０４軒、うち、旅篭は２４軒、宿人数４７８人であった。 道は緩やかに登っていく。駅の手前、左手にある中山道の案内板にしたがって狭い階段を下り少し行くと三叉路の角に須原の一里塚碑を見つける。同じ場所に高札場もあったようだが、いまは宿の案内板立っているのみ。 ここが須原宿終点。（14：36） 道なりに宿に引き返すように少し登ると駅に着く。 駅前の「桜花漬け」を商う大和屋へたちよる。色白の女店主によると桜の摘み取り作業がなかなか大変というお話。宿場時代からの名物だそうで「素晴らしいぞえ須原の桜、つけてにえ湯の中で咲く」とうたわれたのだとか。一箱８００円也を購入。 駅前には幸田露伴の文学碑も立っているが、その上を覆うように桜がそびえている。摘むのはこの桜だろうか・・・？ 須原駅到着。1４時５０分 駅の山側に須原村の鎮守、鹿島神社がある。 駅舎の中で１５：０４発の列車を待つ。 本日の歩行約１３０００歩 英泉　「野尻・伊奈川橋遠景」 広重　「須原；鹿島祠にかけ込む旅人」